御手の中で

殴られた事件
最初の宣教地であったプーケット宣教の４年間は私たちがタイを知るために、また何よりも自分自身を知るために備えられておりました。日本文化を捨てタイ文化を受け入れ中ればならないことは頭で分かっていてもなかなか思いと身体がついてこず、どうしても日本人の価値観でタイ人を測ってしまい、ある時タイ人から怒りの洗礼を受けました。
プーケット空港の駐車場でタイ人のタクシードライバーと些細な事で口論になり、鈍器で鼻を殴られ4針縫うけがをしました。殴られたことで私はそのタイ人に対して恐れと怒りで支配されていきました。その時私は神様から「お前はタイ人を愛する為に来たのではないのか、自分の価値観や正当性をタイ人に押し付ける為に来たのか」と問われました。神様の愛は無償の愛で自己犠牲の愛です。自分を誇ったり自らの正しさを主張する愛ではありません。自分のすべてを殺す、これがイエスさまが私たちに見せてくださった真実の愛であることをもう一度学ばされる出来事でした。

プーケットからチェンライへ 吊るし上げ事件
プーケットで4年が経過し、様々な理由から私たちの活動の拠点であったプーケット・ライフセンターを閉じることになりました。次の異動先を探して祈っていると、チェンライに来ても良いとゴーサインが出ましたので北タイに異動することになりました。チェンライでの最初の1年はクム族を知る為に各村を回って村の牧師先生や村人と時間を使うことに集中しました。
すると1年間でたくさんのクム族の牧師先生方ととても仲良くなりました。しかし、それは表面的な関係性であったにもかかわらず、少し自信過剰になっていた私は彼らが自民族を守る為に大切にしている領域に何もわからず土足で踏み入ってしまったことが原因で、A村の牧師先生から批判され日本に帰れと言われました。初めの1年間で最も親しくさせて頂いていたA村の牧師先生だけにとてもショックを受けました。A村の牧師先生はクム族教会リーダーのグループラインに私の悪口を投稿し続けたことで皆疑心暗鬼になり、私たちはクム族のコミュニティにいることが苦しくなりました。この事件で私たちは自然に涙が出てくるほど精神的に追い込まれ、真剣に日本帰国を考えました。

B村に助けられる 無力の器 パーッ兄との出会い
そんな時、B村のクムの牧師先生が「ジュンジ、A村の牧師にだいぶ絞られたな。しばらくは私のB村で休みなさい。Ａ先生や我々クム族がどういう民族か良く分かっただろ。しばらく何もしなくていいから、行く場所がないならいつでもこの村に来てゆっくりしなさい」と助けの手を伸ばしてくださいました。それまで礼拝くらいしかいく事が無かったB村に行く度にたくさんの村人から励ましてもらい、私たちの心は少しずつ回復していきました。
その時私は思いました。「クム族を助ける為に来たのに、何もできず今は村人から助けられている」
この時、私は本当に無力であることを思い知らされました。自分の能力や力で出来ることなどない。全て神様によって行われている。自分は無力であり弱い者であり、人から助けられる者である。そしてそれを知ることで初めて神様に使っていただける器になるのではないかと思わされました。完全に宣教師としての自信を失った私は、来る日も来る日もただ村人と一緒に時を過ごし共に食事をしていたのですが、不思議なことに今までにない感覚で村人が親しく接してくださり、深い人間関係と信頼関係が与えられました。それは助ける側と助けられる側という垣根を超えた同じ人としての関係性でした。そしてある日この村で最近コーヒーを育てている青年がいるという話を聞き、そこでパーッ兄と出会うことへと導かれました。

神の御計画の中で恵へと変えられる
クム牧師に無視されるといったような経験は2度としたくないのですが、しかしこの出来事があったことで自分がいかに高慢であったか、どれだけ無力な人間であるのか教えられました。またクムに来た当初はA村で自立支援プロジェクトを開始しようと考えてあれこれ準備を始めていたのですが、神様はこの事件を通してA村ではなくB村への扉を開いてパーッ兄と出会わせてくださり、コーヒープロジェクトを開始することになりました。
そしてその後、クムコーヒープロジェクトどれほど祝福されたかについては、一日時間があっても語りつくせないボリュームですので、今日は省略させていただきます。

チェンライからカラシンへ
そして昨年はチェンライからカラシンへ異動するというこれまた不思議な神様の御計画の道中にあり、カラシンでの宣教報告は先ほどひとみの方でさせていただきました通りでございます。
これからまた神様が私たちに何をあらわしてくださるのか、とても楽しみにしております。

ここで今日の御言葉を拝読します。

ルカの福音書 17章20～21節
20節 パリサイ人たちが、神の国はいつ来るのかと尋ねたとき、イエスは彼らに答えられた。「神の国は、目に見える形で来るものではありません。
21節 『見よ、ここだ』とか、『あそこだ』とか言えるようなものではありません。見なさい。神の国はあなたがたのただ中にあるのです。」”

チェンライからカラシンへ
この箇所はパリサイ人がまるで終末のことを意識しているかのように神の国の到来がいつ来るかについてイエス様に質問をする訳ですが、20節でイエス様は目に見える形で来るものではないと返答されます。パリサイ人はしっかり律法を守っていれば神の国に入れると信じていた訳ですが、そういうルールみたいなものではなく、また神の国はこんなものだと人間の頭で理解して言い切れるようなものでも無いと言われます。

21節 神の国は私たちのただ中にある、間にある
21節では、『見よ、ここだ』とか、『あそこだ』とか言えるようなものではありません。「見なさい。神の国はあなたがたのただ中にあるのです。」といって、私たちが見るべきなのは私たち自身なのであり私たちのただ中である、とおっしゃいました。
新共同訳では、「実に、神の国はあなたがたの間にあるのだ。」と訳しており、神の国は私たち人間お一人お一人の関係性の間にあると言います。それはすなわち私たちの人間の関りの中に現わされていくもの、そこに神の国であるというのです。たとえば一人では出来ないことでも二人三人集まれば出来て、共にそのことを喜び合うことが出来ます。しかし、私たちの関係性の中には良いことばかりが生まれてくるのではありません。人が集まると摩擦が起きることは当然のことです。しかし神様はそれもご存じで、良いことも悪いことをも用いられて神の国で生きることが出来ます。私たちの信仰の状態がどうであるのかは関係ありません。神様が私たち一人ひとりを用いられ、私たちは神の国の中で神と共に平和に歩むので、将来のことで人間が心配する必要はありません。

難しい神の国の理解を助ける賛美 「御手の中で」
皆さまはこの神の国の中で神と共に平安に生きることが出来ているでしょうか。実感がありますでしょうか。「出来ています！」という方がおられれば感謝ですが、私たちはなかなか神の国を感じたり理解していくことは難しいように思います。
ここでひとつ神の国を理解するうえで皆さんも良く知っている賛美の歌詞を紹介させていただきます。

「御手の中で」
１．御手の中で すべては変わる讃美に わが行く道を導きたまえ あなたの御手の中で
２．御手の中で すべては変わる感謝に わが行く道にあらわしたまえ あなたの御手の業を

良いことも悪いことも神様主導で御手の中で生かされていく
御手の中には英語で「in his time」となっており、「神の時、神のタイミング」です。
私たちの人生は神様の御手の中で動いており、神様のタイミングで讃美へと変えられて行くということを歌った賛美です。
いかがでしょうか。神の国が少し見えてきましたでしょうか。
自分の人生の中にある神の国を知り、神と共に生きる人生。私たちの間から出る良いことも悪いことも全て神様が主導しておられるという神の国がとても分かりやすく表現されている賛美です。
神様のタイミングは私たちには分かりませんが、私たちの信仰はそれがいつか起こることを確信して主に感謝を捧げることが出来ます。それは私たちが生きている間に起こらないかもしれません。それでも神様の計画が最善のタイミングで成り、それは素晴らしく変えられていくのです。

神の国に生きる平安を取り戻そう
どうぞ皆さん、これからもこの賛美を毎朝口ずさんで下さい。そして既に私たちのただ中に、またこの私たちの間に与えられている「神の国」を意識して参りましょう。タイ宣教で主が御手の中で全てのことを益として変えて下さり、喜びの時の神の国の中におり、苦しく悲しい時も私たちは神の国の中にずっとおりました。私たちが神の国を意識し、そしてその中で生きようとするなら、そこにおられる主が私たちを励まし助け癒し、日々の生活の中にたくさんの恵みと平安と喜びがあることを気づかせてくださいます。

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